1年ぶりのKiyuu’s Salon、今回はお二人でのご登場です。
正派西川流の名取師範として、現在は滋賀県でお教室を持ち、門下生のご指導をされている西川玉洲(にしかわ ぎょくしゅう)さんと、東京都ご出身で邦楽囃子方としてご活躍、また様々な所で後進の指導も行っている望月美沙輔(もちづき みさほ)さんです。


(左が西川玉洲さん  右が望月美沙輔さん)
なんとお二人は大学の同級生で20年来のご友人。昨年は、10月の京都での舞踊会、また12月の靖国神社での奉納舞でも共演されております。
後編もお二人の仲の良さが伺える、貴重で素敵なお話をどうぞお楽しみください。
前編はこちら

伝えていくこと・人間国宝の先生との強烈な思い出

喜優:私達は TOKYO日本舞踊LIFE を通して、華やかな部分も、古典的な渋い部分なんかも伝えていこうという目的を持ってやっているのですが、美沙輔さんなりの目標というのはありますか?

美沙輔:伝えていきたいっていう思いはすごくあります。私は望月流なんですが、笛の方がほとんどいないんですよ、お芝居の方はいらっしゃるんですが。それと芸大に入った時に、先生に全否定されたんですね、これまで自分がやってきたこと全部。当時は本当に下手だったから認められなかっただけって今はわかりますけど、でも同じ音楽に正解って一つじゃないじゃないですか。その時はやっぱり悔しかったから、自分が上手になればこんなのもあるんだよって伝えられる。仲間を増やしたいんです。
それと300年、400年続いて伝承されてきている、それって人の想いに乗せて伝承されてきているから、これを伝えるってことは人の心に伝わる。歌舞伎とか日本舞踊とか物語とか、笛もその心情とか日本人の元々持ってた感性とかが継承される。音楽を楽しんで欲しいし、笛なら何でもいいですよじゃなくて、古典の良さとか知ってもらいたいと思っています。

喜優:それがやっぱり古典の強さだよね。先人たちの想いがちゃんと乗っかってる。

美沙輔:そうなんですよ。裏打ちされて削ぎ落とされて、それで残ってるもの、それを伝えていきたいんです。またそれとは真逆で「好き」でいいですよ、あなたが吹きたいように吹いてもいいですよとも。一人でもやれば楽しいからやってみて広がって「古典面白いよね」ってなったらいいですね。今度お三味線の音聞いてみよう、お太鼓の音聞いてみようって広がるじゃないですか。絶対にもっと理解される芸能だと思うから、このまま衰退していくものじゃないと思っています。

喜優:我々の思ってることと同じよ。

美沙輔:自分は、上に立っていたいとか、出たいとかいうタイプじゃなくて、同じ思いの人達、家族のような、とにかくそんな仲間を増やしたいと思っています。

喜優:わかります。私達もそうだもんね。

美沙輔:お流儀によってカラーがあると思いますけど、ウチは個性派というかわりと自由なんですよね。

喜優:残念ながらもうお亡くなりになってしまったけれど、人間国宝の堅田喜三久先生()も、わぁーと自分の中でノルというか、硬いのはお好みじゃないんですね。それで私がスッゴイ覚えているのが、もう随分前に能楽堂で「道成寺」を踊ることになった時に、喜三久先生と美沙輔さんに出てもらったことがあったのね。それで鼓は喜三久先生、笛は美沙輔さん、2人で並んでね。その時に終わってから先生が私に「あの子いい笛吹くよ」って言ったの。

※堅田喜三久(かただきさく)
歌舞伎長唄囃子の第一人者。人間国宝。現代音楽やジャズも演奏するなど型破りで幅広くご活躍。2020年12月没。

編集:へーー!

美沙輔:でもその時すっごい、めっちゃ怒られたんですよ!

(一同笑)

美沙輔:当時、大学1年か2年の頃だったと思うんですけど。

玉洲もう喜三久先生なんて、雲の上の存在よね。

美沙輔:初めて喜三久先生とお会いするってなって、もうおっかなくってビビり倒してて、横であの迫力で「急之舞(きゅうのまい)」をやったらもう飲み込まれちゃって。もう1曲新しいのがあったんですけど。それでめちゃくちゃ怒られて、うぁーって大泣きしました。

編集:どんな感じで怒られたんですか?

美沙輔:いやもう怒鳴られて、衝撃的すぎてあまり覚えてない(笑)

喜優:その時、喜三久先生は鼓の皮が破けたみたいで「もうメチャクチャになっちゃったんだよ!ごめんね!」と私に言ってたけど(笑)でも、そのときに本当にすごい真剣な顔で「あの子いい笛吹くよ」っておっしゃってたの。だからそれをずっと覚えてるの。

美沙輔:そうですね。あれが初めての出会いでしたね。すごい迫力だったー。でも本番終わった後に、褒めてくださったんですよ。「やれば出来るだろ」と言われたのはすごい覚えてます。もうすごいありがたかったです。晩年はよくお声かけてくださって、お仕事連れていっていただきました。

玉洲:すごい大切な経験だね。

喜優:お稽古を重ねた上で、それで本番の舞台こそさらに上達が出来るから、舞台に上がることを大事にされてたんだよね。

美沙輔:びっくりしたんですよ、聞いたことがないほどの鼓の音の大きさと声と。それまで喜三久先生レベルの方と演奏したことがなかったから、こんな大きな音を出される方は知らなかったし。

喜優:だから私はそんな喜三久先生がおっしゃった一言が忘れられなくて。そうだねいいよねって緩く言うんじゃなくて、何かすごい光ったものがあったんだと思う。

美沙輔:嬉しい〜!嬉しいです。今日はいい日だ(笑)
結局、人に育ててもらってるんですよね。どんぐりの背くらべでやっててもダメだし、圧倒的な上の人がいるって大事だと思いました。

喜優:そう、先生の目があるってすごく大事。だから私も今でも先生に習うことで軌道修正ができる。正統な所にいないと、自分のお弟子さん達を迷わせることになるし、変な色をつけることになるから。何か新しいことを作り出すのも良いけど、伝統を続けるって大きなことだからね。

玉洲:日本ってまさにそうですよね。いろんな文化も取り入れてきたけど、伝統を守って続けてるのがすごいですよね。

喜優:本当に良いもの、素晴らしいものを尊敬して、それを大事にしていこうって思うことが、日本の芸能文化であってほしいと思うよね。

編集:お笛が主役のリサイタルみたいのはあるんですか?

美沙輔:基本的にはなかったですね。やっぱりお囃子は前には出ちゃいけないというのがあるので、若手のうちはそんな人に芸を見せられるような立場でもなかったですし。でもコロナ禍になって、それこそちょっと変わってきた感はあります。何もしなかったらなくなっちゃうし、発信していかなきゃって、若い人達が自分達で会やったりして、風潮的にもなんかやっていいという雰囲気にもなって、逆に今皆さんリサイタルやってますね。

編集:コロナ禍って大きな変化をもたらしたんですね。

美沙輔:大きいですね。今度、国立劇場も建て替えですし、日本橋劇場も工事するそうで、閉まってしまうんですよ。思えば今まで私達って恵まれすぎてて、踊りの方からお仕事いただける生活を送っていたので、踊りの方々の会がなかったら、お仕事なくなってしまうんですよね。だから自分たちで何かやらなきゃいけないっていう意識が上がってきている気がします。

喜優:これからやっぱり生の演奏って大事にしなきゃいけない。今はデジタル音がそこら中にあって体にまとわりついちゃってるけど、それを払うのはやっぱり生だと思うのね。生きてる細胞が通ってるわけだからね。

 

喜優:玉洲さんはこれからどんどんお弟子さんも増えたりして、どんなことを発信したい?ちょうど立場的にも私と同じですよね、師匠と門下生がいるっていうのは。

玉洲:責任が伴うと思いました。お弟子さんには、自分が学んだことを自分の中でちゃんと吸収しないと教えられないですし。先人が大事にしてきた本物を残していくことが大事だなと思います。私も辞めていた時もあったけど、文化がなくなってしまったら日本じゃなくなってしまうので、子供たちにも敷居の高いものっていうだけで終わらせては駄目だなと思っています。だから喜優先生のおっしゃるように、厳しいだけばっかりだと続かないので、お弟子さん達には楽しんでもらいたい。そして日本人である誇りを持って欲しいんですよね。こんなスゴイ国ないと思うんです。本当に大事なものを受け継いできたっていうのがスゴイ。自分一人は大した力はないけど、やっぱり続けるってすごい大変だから、やっていく意味があるかなと。
大先生から喜優先生とつながってきてるから、私もお弟子さんに伝えていかなきゃと思っています。

編集:ぜひ親子三代で踊ってほしいですね。

玉洲:京都の会以来、娘もちょっとやる気になったみたいなんですよ。やっぱり子供はバレエとか可愛いドレスとかに憧れるんですけど、着物着て楽しかったみたいで。

喜優:それは良かった!

編集:子供の時にしか着られない着物とか髪型とか、絶対可愛いですからね。

玉洲:日本のものってやっぱり日本人が一番最高に似合うから、もったいないですよね。触れているか触れてないかで絶対違うと思います。
今、学校教育でヒップホップが取り入れられてるんですよね。もちろんそれもいいんですけど、なんで日本の伝統文化やらないんだろうって思ってしまいますね。

喜優:ヒップホップでもなんでも、せっかく教えるならプロフェッショナルにやってほしいと思う。

玉洲:興味のない人でも、本物って「わぁすごい!」ってなるんですよね。

美沙輔:子供でもちゃんとしたものを見せれば、ちゃんと伝わるはずって思います。

玉洲:だからこそ日本舞踊をちゃんと伝えなきゃいけない。だから喜優先生がされてることって本当に素晴らしいと思います。日本舞踊だけじゃなくて、着物とか全部素晴らしいから、そして楽しみながら素敵な文化を持ってるんだよっていうことを発信してくださるのはスゴイ。

喜優:そう、だからこのWEBサイトも、私の日本舞踊のサイトではなくて、私を通して和文化をご紹介したいから能とか歌舞伎とか取り入れたりね。

編集:このサイトの使命としては、ちゃんと古典を正しく伝えていこうというコンセプトがあります。

喜優:品性を大事にしていってほしいというのが前提にあるのね。品性ってやっぱり謙虚さがあったりすごくシンプルなものだと思う。そして楽しくね。そうしないと心が輝いていかないから。この間の京都の会でも、みんながキラキラ輝いて見えたのはそういうことだと思うの。

玉洲:ウチのお弟子さんが、喜優先生が最後に「楽しむと心が豊かになる」っておっしゃったのが印象深かったようで、スゴイ良かったし楽しかったです!って喜んでました。

喜優:楽しいって「ゆるい」とか、「好きなように踊る」とか、そういうふうにとらえがちになっちゃう場合があるけど、でもそこはそうじゃない、教えることはちゃんと教えるっていうね。

編集:そこはやっぱりちゃんとしたお手本(喜優先生)がいらっしゃるからそうなりますよね。

玉洲美沙輔:なりますよね。

美沙輔:喜優先生を見て、姿勢正そうみたいな気持ちになります(笑)
ウチの女性のお師匠さんもすごい姿勢がいい方で、居住まいが美しい人が美しい人なんだって気付かせていただいた方でしたね。だから喜優先生のお弟子さん達もそうなりますよね。

編集:まさにいつも軌道修正される感じです(笑)

美沙輔:お着物とかの見る目も養われると思う、感性とかも。

喜優:皆さん正統派志向なので、これからもきちんと伝承していきたいですね。

【後編終わり】

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【西川玉洲さん プロフィール】

西川 玉洲(にしかわ ぎょくしゅう)
4歳の頃より正派西川流入門
西川喜代枝に師事
西川喜優に師事
正派西川流 名取師範
東京藝術大学音楽学部邦楽科
日本舞踊専攻 卒着付け教室開講
立ち居振る舞い講座
Netflix original series
「ストリートグルメを求めて/大阪編」出演中
ご紹介ページ

【望月美沙輔さん プロフィール】

望月 美沙輔(もちづき みさほ)
6歳より望月太喜輔師に師事。
東京藝術大学邦楽科卒業。

国立劇場養成科 既成者研修 講師。
こまつ歌舞伎みらい塾 講師。

HIBICUS浅草邦楽教室講師。
社団法人長唄協会、お囃子ライブ会員。

古典音楽を中心に国立劇場、明治座、NHK録音等全国各地で活動。
また文化庁公演にて中国、韓国、フランス公演等、海外各国でも公演を重ねる。

録音、CM、舞台指導等 多岐に渡り活動。
後進の指導にあたり、東京藝術大学音楽学部邦楽科への入学者など次世代の笛奏者を世に送り出している。

ご紹介ページ

Kiyuu’s salonでは、これまで出ていただいた方皆さん、自然と「継承すること」というワードが出てきます。今回のインタビューでも、日本文化に対するお二人の熱い想いが伝わってきました。
「私達、あんなに意識低い系だったのにね〜」と最後笑ってらっしゃいましたが、本物に触れて、真剣に取り組んできたからこそ、たくさんの気づきがあったのだと思います。心身美しいお二人に出逢われたお弟子さん達は幸せだと思います。
お二人のこれからの益々のご活躍を楽しみにしております。

 

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