2回目のゲストは、西川流のお名取になられてちょうど1年の「優葉(ゆうは)さん」です。

喜優先生のお弟子さんとなられて、もう20年以上になるそうです。
普段は、訪問看護師さんとして活躍されています。私たちの姉弟子さんとして、公演やイベントの時などとても頼りになる素敵なお姉さんです。喜優先生を通して、たくさんのプロフェッショナルな方々とお会いされていて、またとても貴重なお話が伺えました。注釈が多めですが、その分深いお話が伺えておりますので、お楽しみいただけますと幸いです。

今回のロケーションが「(※1)」なのですが、なんと都内のマンションの一室にあるんです!とてもマンション内にあるとは思えない素晴らしい空間でした。実際にお2人がお稽古をしている様子を撮影し、インタビューはまたレトロで素敵な喫茶店で行いました。

(※1) 能楽堂
知久喜楽堂(ちくきらくどう)。世田谷区の成城学園前駅から徒歩3分にある能楽堂。オーナーは、これまで病気らしい病気をしたことがないという87歳の素敵なマダムです。特に能関係の方ではなく、ほぼ趣味でこの能楽堂をお持ちとのこと。タブレットでインターネットもこなすパワフルでチャーミングなお方です。

 

踊りを始めたきっかけ〜名取になるまで

喜優:では改めて、日本舞踊を始めたきっかけは何ですか?

優葉:幼稚園の頃に習ってる子がいて、そのお舞台を見に行ったんですよ。そのインパクトが残ってて。親に習いたいと言ったんですけど、家族が転勤族だったんで、その時は母にスルーされて、でもずっと脳裏にあって。その後もお茶とかお花とか見学に行ったんですけど、あんまりしっくりこなくて。大人になって海外旅行が好きだったんですけど、日本のこと何も知らないなと。日本ならではのことを習いに行きたいなと思ったのが始まりで、子供の頃を思い出してやっぱり日舞いいなと思ってました。

喜優:小さい時から思ってたんだね。

優葉:ただ、敷居が高いなと。どうしたらいいんだと笑 そうしたら、たまたま看護学校の同級生が、喜優先生とお知り合いだったんです。

喜優:共通の知人がいたの。「踊りやりたいって言ってる友人がいるんだけど」って連絡が来てね。

優葉:それで紹介してもらって。でもその時はなんとなく、日舞のお師匠さんってすごい年上の方ってイメージがあったから、同世代だったのでちょっとビックリしました。それからもう20年。

喜優:もう当たり前のようにいてくださる存在だから。もう20年かぁ~笑

優葉:そうなんですよ笑

喜優:私の結婚式も来てくれてるんだから。それがもう今はお名取さんとしてね。

優葉大先生(※2)は早くから、大きい舞台があった時に「次回はお名取さんとして出るのね」と話してくださってて「いやいやいや」と思ってたんですけど。

(※2) 大先生(おおせんせい)
喜優先生のお母様であり師匠の、西川喜代枝先生。
調布日本舞踊連盟の創立者のお一人で、現在は顧問としていらっしゃいます。
なお、喜優先生が会長を務められております。

 

優葉:喜優先生にいろいろな所に連れて行っていただいて、一中先生から了中先生(※3)から本物の方々にお会いする機会を作っていただきました。

(※3) 一中先生、了中先生
都 一中(みやこいっちゅう)
一中節宗家。一中節(いっちゅうぶし)とは、浄瑠璃(三味線を伴奏しながら台詞と旋律で物語を進める)の一種。
国の重要無形文化財。
都 了中(みやこりょうちゅう)
一中先生のご子息。一中節都派十三代目家元。次代を担う若きプリンス。

 

優葉:そういう本物の方達を見てきたからこそ、自分が中途半端な感じでお名前いただくって、非常にジレンマというかプレッシャーを感じてたんですよね…。喜優先生は、ありがたいことにそんなに無理強いはされない方ですし、まだお名取はいいかなと思ってたんです。
実は大先生が具合が悪くて入院されていた時に、病院で2人でお話させていただく機会があって、そこでまた「私が元気なうちにね」とお話をいただいたんですね。それでも「でもなー」とまだ思ってたんですけど、そんな時に喜優先生を介して、いろんなプロの方々にお話聞いていただいたりしたんです。そうしたら
お師匠さんが言う時が、その時なんだよ
とおっしゃっていただいて。私はまだしっくりは来なかったんですけど、そう言っていただけるうちがいいのかなと。あとは自分としても、こんなに長く続けた習い事ってなかったんですよね。あとは先生にお名前をいただくっていう嬉しさもあり、怖さもあり『これだけキレイな先生で、、キレイな踊りをされる先生のお弟子さん』と思われること自体プレッシャーもあって。でも皆さんの後押しがあって、先生もいい機会にってお話いただけてお名取になれました。

喜優:お名取に関しては、誰にでもすぐってワケにはいかなくて、名前を使っていくにはやっぱり中身がないとね。ある程度お時間が必要だったり、個人差はありますけど。筋が良い方とかもいれば、月に1回しか来られなくてなかなか進まない方もいらっしゃるし、条件は違うからなんとも言えないけれども。でも先生が「そろそろお試験いいんじゃないかな」と言ってくれる時が一つの節目っていうか、良い段階なんじゃないかと思います。

優葉:先生ともご縁なので、タイミングも大事だなと思って。

編集:名取の試験の時、緊張しましたか?

優葉:緊張しました。

喜優:お杯を交わして、お免状がちゃんと出るのね。

編集:優葉と名付けた理由を聞かせてください。

優葉:先生から一文字をいただくのが恒例というか習わしなので、あやかって優の字をいただきました。それで全く自分のエキスがないものよりは、私の名前が葉子で、葉の字面も好きだったので、僭越ながら師匠と自分のということで付けました。親友がいいんじゃないって提案してくれたのもあって。

喜優:やっぱり名前って人が出ると思うんだよね。皆さん自然に自分の雰囲気にピッタリな名前付けてるなって思う。名前も縁なんだなって。

 

プロフェッショナルな方々〜継承とは

優葉:大先生はじめ、出会った方みんな素敵な方々なので、自分の幅も広がった気がします。意外と狭い世界なので、職業柄。

喜優:コロナ前に、プロフェッショナルな方々とのお食事会が何回かあって、美意識とか芸に対する感覚とか、高いレベルの話を聞いてきたからね。

優葉:普通仕事で「突き詰める」ってなくはないけど、プロの『自分を鍛錬して突き詰める』っていうご職業の大変さっていうのと、それを『継承していく』素晴らしさは、計り知れないなぁと。
喜優先生の結婚式の時に、花柳春先生が「青海波」を踊られてすごい素敵で。それでまだ習い始めた頃でしたけど「喜優先生にお習いしてるんです」とご挨拶させていただいたんですね。そしたらその時に「お稽古しっかりして、継承していってください」と言われたんですよ。
「継承かぁ~」ってその時始めて、古典文化ってそういうもんなんだって思いました。普通に仕事してたらなかなか聞かない言葉だし、対面で稽古していく大切さって、そういうことなんだってあの時感じました。お家元とかその継承の重みとかは計り知れないなと。

編集:喜優先生はその継承のプレッシャーとか感じたことはあるんですか?やっぱり継承していくことを意識して育てられたのでしょうか?

喜優:母は自然体な人だから、こうしなさいああしなさいとかはないのね。ぬくぬくした中では育っているんだけど、やっぱり私の周りも本物の先生だったというのがある。いろんな先生にご縁があってお習いしてるのね。まずベースとして母は別格ですよね親ですから。ほかに正派西川流四代目家元や、花柳春先生、今お習いしてる先生(なんと92歳)もそうだし、地唄舞の先生、能の奥川先生、それから昨年お亡くなりになってしまいましたけれど堅田喜三久先生(囃子方の人間国宝)もそうだし、お習いした先生が、皆さん物凄いプロフェッショナルで、でもピリピリしてるわけじゃなくてとにかく大らか。でも芸に関しては繊細で、本当に細かいところまで突き詰めてらっしゃる。そういうのをたくさん見てきたり、教えていただいたりしてきているから。
自分もまだ極めている段階だからなんとも言えないけど、芸事は筋の通ったこととか、心が全部出ることだから。そこをちゃんと伝えていくことが継承だと思ってるのね。

編集:素晴らしい環境ですね。

喜優:同じ習い事でも出会いだし、出会いって縁なんだけど、縁って波動があると思うから「似た者同士が合う」ってあるじゃないですか。それってお互い「引き寄せ」があるわけだから「幸せな引き寄せ」を考えた時に、自分が良い波動とかオーラを出してないとって思う。そう思うと自分も気が引き締まってくるし、そうやって出会えてる先生だからそこは一つの確信がある。

優葉編集:なるほどー。

喜優:だから教えていただいたことをまず伝えて、自分が体験したり、感じたりしてきたことももちろんプラスアルファして、自分の世界ができてくるから。やっぱり師匠との出会いって物凄く大事と思うし、師匠だけじゃないけどね。
逆に私に関しては、このように皆さんご縁があって来てくれたことで、自分がまた一つ確信を持ってるっていうか。

優葉:20年お付き合いさせていただいてますけど、喜優先生はいろいろ大変な思いをされてると思うんですね。いろんなところに気を遣って、かつ自分の舞台もきちんとされなきゃいけないし、お弟子さんへの気遣いもあるし、気を張ってないとできないと思うんです。だからちょっとくらいデビルな部分というか… お弟子さんに「もうちょっとやってよ」とか「肩くらい揉め」とか笑 言ってもいいと思うんですけど、本当に一回も見たことがない。これだけキレイだから、何かあってもいいと思うんですけどホントに全くない。こんな方なかなかいないと思って。生き菩薩ですね。

編集:生き菩薩!

喜優:笑笑

優葉:先生のこと知ってる人は、皆わかってくれると思う笑

編集:すごいわかります笑

優葉:かつ竹を割った性格でもあるんで笑、女々しくない。そういう所も素敵なところですよね。

 

日舞お稽古〜所作とは〜大谷翔平選手?

喜優:優葉さんは習い事が日舞が一番続いたって言ってくれたけど、それはなんだろう?何かグッとくるものがあったのかな?

優葉:仕事で精神的にキツくて大変な時期があって…。でもなぜかお稽古には行ってたんですよ。その約30分のお稽古の『一挙手一投足に集中する時間』て、大人になるにつれてなかなかないなって。ああいう時間て大事だなと。

編集:確かに。しかも優葉さん、お稽古の録画(※4)してないですもんね。

喜優:そう!優葉さんが習い始めた20年前はまだカルチャーセンターでのお稽古をやってなかったんですね。その時は基本、個人稽古だから1時間くらいとれるわけよね。だからお互い相対する中で先生のを見て「ここはひと間待ってから出すんだ」とか「ここはこうしてからこうやってるんだ」とか、見取り稽古じゃないけど、そういう向き合いでやってきた人間なので、録るっていう習慣はなかったのね。他の先生方もみんなそうだから。

(※4) お稽古の録画
録画に関して正しくお伝えできればと思うので、解説を入れさせていただきます。

近年、ダンスのレッスンなどはスマホが普及したのもあり、生徒がレッスンを録画するのが当たり前になっています。それにより振付を覚えたり、自分の姿などもチェックできます。(NGのところももちろんあると思います)
ただ、日本舞踊で録画をOKとしているところは、今もほぼないと言えます。でもこれが正統派です。そんな中、喜優先生はカルチャーセンターのお稽古が始まったことにより、録画OKとしてくださいました。私はこの録画がなければ振付がいつまでも覚えられず、ここまで続けてないと思います。ですが優葉さんは、20年経った今でもお稽古の録画はしていないのです!ではお話の続きをどうぞ。

 

喜優:だから個人稽古の方には『やってる最中が一番大事だから』ということをずっと伝えてきたのね。でもカルチャーセンターで初めて「団体稽古」が始まって、それが「隔週の月2回だけ」だから、それで覚えるってなかなか難しいと思うし、初心者の方だと余計に大変だと思うのね。それで、良い意味での皆さんの効率を考えて、皆さんが自分の姿を録画することはOKとしたのね。優葉さんにももちろんOKと話してるんだけど、それでも録らないの!

編集:えーー!それはもうあえてですか?

優葉:もうずっとそうやってきたんで、振りに対してはどうにかついていこうっていう。

編集:素晴らしい…。それはさっき言ってた「集中する」っていうのが良い時間なんですかね。

優葉:そうそう。自分にとっては仕事柄必要な、自分のためだけのグッと一人の先生に集中して、もちろん体も動かしながら、良い意味でデトックスされる。仕事で疲れて休みたいなと思う日もあるんですけど、行くと気持ちも体もスッキリして、ホントにお稽古が一番好きな時間。

喜優:おー。

優葉:舞台はもう心臓が口から飛び出そうになるんで、なければないでいいんですけど笑

喜優:あはは笑 いやいや両方必要だからね。

優葉:はい、やっぱりそれはそれで張り合いがありますし、真剣にもなりますし。でもホントにお稽古の時間が自分にとって大事な時間です。こんなにキレイな先生がこんなに近くで踊ってくださってるのって、もう特等席じゃないですか。少しでもエキスが入ってくれるといいなと思いながら笑

優葉:喜優先生のご一家には救われてます。皆さん懐深くて。だから喜優先生じゃなかったら続けてなかったと思います。変なことやっても笑いとばしてくださるし、ありがたい。大切な時間です、お稽古場は。

喜優:地道にお稽古をずっと20年、そして舞台にも勉強会にもちゃんと出てくださってね。優葉さんの本番とか下浚い(リハーサル)を見てると、「あ、自分にそっくりになってきた」って思う瞬間がいっぱいあるのね。やっぱり積み重ねってスゴいし、ちゃんと師匠の形とか、持っていき方を取ってくれてるんだなって思う。

優葉:(少し涙ぐみながら)泣けちゃう。。お名前もいただいたから「喜優先生のお弟子さんね」って言ってもらえるようになっていきたいなとは思ってます。

喜優:嬉しいです。いろんな角度からだけど、自分の心持ちだとかがすべて芸にも出るし、また芸を見ればその人がどういう人なのか、わかる人にはわかるから。

編集:わー、出ちゃうんですね。

喜優:ホントに隠せないんですよ。

優葉:自分の踊りをDVDで見返すと、なんか先々を急ぐ普段の感じが出ちゃってるなと笑 もっとためとけばいいのに次の動きにいっちゃってる。そこがまだまだ課題ですね。

喜優:そういうのがわかるようになったよね。

優葉:浄瑠璃やお三味線のいろんな先生にお会いした時、ちょっとした所作もすごいキレイなんですよね。お扇子置いて、引き上げてっていう動きとか、楽器をかまえるまでの仕草とかすごい美しい。

喜優:所作とか美しさとか、私がよく言ってる品性とかって、やっぱり最終的にはすべて『思いやり』だったり『優しさ』だと思うのね。大事な物と思えばそっと置くようになるだろうし。それがまた『艶やかさ』に変わっていく。だから全部がつながっていると思うんだよね。

編集:メジャーリーグで大活躍の大谷翔平選手も同じですね。

優葉:道具を投げたりしないで、相手のバットも拾ってあげてね。

編集:審判への礼儀正しさとかで、周りの見る目も変わってくるという。

優葉:これって日本人特有の美しさ、品格なのかなって思います。

喜優:そういう所の意識も高いし、行動見てて思いますよね。

【前編】終わり


編集後期
優葉さんから「日本特有の色の呼び方で『かめのぞき色』って知ってます?畑とかに水をやるときの為に、雨水を溜めておく甕(かめ)があって、それを覗いたときの日の光が当たった色なんですって。薄いブルーのような緑のような絶妙な色なんですけど、それを色にしちゃう昔の人の美意識すごくないですか?」と、それこそキラキラした瞳で、サラッとお話できる優葉さんの美意識の高さに感心しました。

色を調べてみると、TOKYO日本舞踊LIFEのメインカラーに似てるような。。これからはメインカラーは「かめのぞき色で、意味は~」なんて話したら粋でしょうか。

後編は、本会前の失敗談や着物のこと、優葉さんだからこそ知る喜優先生の様々な演目についてまた盛り沢山です。どうぞお楽しみに。

<後編はこちら>

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