【TOKYO日本舞踊LIFE 創設1周年記念特別企画】として、4月初旬に能楽師 奥川恒治先生をお招きし『風姿花伝(ふうしかでん)』について、ご講演いただきました。
「風姿花伝」というものを恥ずかしながら全く知らず、「理解できるかしら…?」「わからなかったらどうしよう…」などと不安を抱いておりました。
ところが、奥川先生がお話を始められた途端に引き込まれ、笑いもたくさん起こり、うんうんと頷いている自分がいました。
縁遠いものと思っていた「風姿花伝」は、それは身近なものだったのです。
宇宙飛行士の野口聡一さんが宇宙にまで持って行き愛読していたと言われ、またジャパネットたかたの創業者の高田明さんもバイブルと言っている「風姿花伝」。
奥川先生の講演会の模様を、一部抜粋してお届けします。
日本の三大古典芸能ってご存知ですか?
(奥川先生)
あんまり固くならないようにして、お話を進めていきたいと思います。
まず古典芸能の話をしますけれども、日本の三大古典芸能、パッとおわかりになりますかね。
まずこれからお話する能楽ですね。それから、ご存知の歌舞伎、それともう一つが文楽、これが日本の三大古典芸能なんです。
これらは要するに古典の芝居をやってるんですよ。これらの何が違うかっていうと、芝居をするときの使うアイテムが違うんです。
能は、仮面。表情のないことを「能面みたいな表情」と言われたりしますが、仮面で芝居をします。
歌舞伎は、化粧をする。隈取りですね。
文楽は、別名人形浄瑠璃とも言いますから、お人形さんを使って芝居をします。
仮面か化粧か人形かっていうことで整理をしていただくと大変わかりやすいと思います。
観阿弥(かんあみ)と 世阿弥(ぜあみ)
観阿弥(父)と世阿弥(息子)では、作品の内容が全然違うんですね。
最初、能は当然ながら売れてないわけですよ。
でもなんとか売らなきゃいけない。一座を抱えて、この人たちの生活も何とかしなきゃいけない。
観阿弥という一人の天才が考えたのは、最初から面白い。スタートダッシュでもう盛り上がっている。
代表作品の一つ「自然居士(じねんこじ)」は、これは舞台上で喧嘩するんですね、喧嘩をするように歌い進めていく。
見た目に面白い、あんまり知識がいらない。
ぱっと見てぱっと面白い、これを観阿弥が目指しました。
観阿弥の子供の世阿弥は、足利義満が見に来ていた時に、舞台に出ていました。
そのときの世阿弥が、あんまりに可愛いかったらしくて義満が一目惚れ。一同笑
そうして義満は生活の面倒だけじゃなく、知識の面倒も見ました。
当時の最高の学者だとか、教養のある人たちを世阿弥につけるんですね。
そうすると世阿弥はそこから伊勢物語だとか源氏だとか、平家だとか漢詩、連歌だとかいろんな知識を吸収して作り上げていく。
だから、世阿弥の作品はスタートダッシュなんて一個もない。ゆっくりじっくり始まる。
ですから「井筒(いづつ)」なんて前半一時間、ほぼ動きません。一同笑
だからその代わり、世阿弥が作ったものは知識がないとわからない。
でもそれを知ってると、物語がどんな風に展開しているのか、動きがない中でもわかります。
風姿花伝とは
では、この風姿花伝っていうのはなんだって言ったら、結局は芝居なんですよね。
室町時代に世阿弥が書いた、芝居を作る上の、それから演技をする上の『伝書』という風に思っていただくといいと思います。
序段を除いて、七段からの構成になっているんですけれども、一段から順番に書いていったものではないようです。
【序】稽古は強かれ、常識は無かれ
「稽古はどれほどしてもいい、でも常識を持つのはやめなさい。」
つまりは、こうだと決めてしまってそこから動かせない、固定観念みたいなのを持つのはやめなさい、柔軟でありなさいというようなことが、一番最初の序の段に書かれているんですね。
【第一章】年来稽古条々(ねんらいげいこじょうじょう)
※年齢に応じた稽古の仕方、対処の仕方などが書かれている章
年齢はピンポイントでなく、大体このくらいの年頃と思ってもらえばよいです。
7歳
稽古を始めるのにはその頃がよかろうと。「子供の持つ長所が伸びるように、自由にさせる。善し悪しを判断して細かく注意しない、注意せず、大人の演技はさせない。」
これは自然体に任せて褒めて伸ばすっていうことですね。
12歳
稽古を始めてから5年経った、と思ってもいいと思います。
「能の構え(基本姿勢)やハコビ(すり足)を正確に、正しい発声、明瞭な発音といった、舞と謡(うたい)の基礎を大事に稽古する。姿がよく声に張りも出るので、この年頃に咲く花があるが「年頃の花」である」
初心の時の基礎訓練の稽古ですね。基礎訓練の大切さです。
実は何事も一番最初、基礎が大事なんですよ。ただ、平たく言って基礎ほどつまらないものないの。建物でも基礎がしっかりできていれば、どんな上物を建ててもびくともしないけれども、基礎が危いと傾いてしまう。
この基礎訓練って実は続けなきゃいけない。
これすごくしんどいです。要するに自分で歩いて、体全部動かしてやるわけですよ。手の練習だけしてればいいいとか、気持ちの練習だけしたらいいわけじゃなくて、歩くところからいつでも練習をし続けてないとできない。
基礎の一番しんどいのは、続けないといけないということですね。
【以下編集】
その後、17歳、24歳、34歳と解説が続きます。
44歳では「自分に似合った役柄を安定した気分で演じ、肉体にも無理せず、若い役者の育成に心がける」。
50歳以上は、「何もしないという方針以外、術はない」。
皆さん自分の年齢や、お稽古の年数に照らし合わせて熱心に聞いていらっしゃいました。
女性はどうしても年齢に敏感になってしまいますので「50歳以上は術がない」と言われると、ちょっとショックを受けましたが、当時は今より長生きではないので、今で言うとプラス10歳くらいで考えてもよいのでは、あくまで目安ですとおっしゃっていました。
また、52歳で父の観阿弥は亡くなっていますが、亡くなる15日前に奉納で舞った能は、益々魅力的であったと世阿弥は書いているそうです。
そして、第二章〜第七章(第四章と第六章は省略)まで、また「風姿花伝」の後に書かれた「花鏡(かきょう)」についてもお話いただきました。
よく聞く『初心忘るべからず』についてや、『離見の見』など、どれも深く、身につまされることや、今後の踊りの心構えや、参考になることなど、内容盛り沢山でした。
受講者の皆様の感想
◆イチロー選手も、基礎練習をずっとされてたと聞いたことがあります。仕事、職業、踊りとかだけでなく働く上でも、とっても参考になるなとお話を伺ってました。しかもこの時代にこういうお話をされてたと思うと、とても感慨深く思います。
◆序で「おー!」と思ったのが『好色・博打・大酒は厳重な禁戒』
もう何も言えなくなってしまいました。笑
◆稽古せよということで承りました。一同笑
でもお稽古だけでなく、自分の人生に関わるような教えをいただいたような気がします。普段わかっているようでも、気づくことってなかなかできないので、今回の教えを心に留めてやっていこうと思いました。
◆老人の役で演技をする時は、老人らしくするのではなく「年を取れば取るほど、元気に見せたいし、若々しく見せたいもの」と聞いて、自分も確かにアンチエイジングをしているなと思いました。こういったことをもっと自分の中に取り入れて、今後の踊りに役立てたいと思いました。
◆想像以上に面白かったです。人生の中で私に似合った役柄って何だろうと思ったり、次の育成にも心がけないといけないとか、子供たちにどう伝えられるだろうかとか考えさせられることばかりで、本当に深いなと思いました。
喜優先生からのお言葉
皆さんいつも熱心にお稽古してくださっていて、今日のまとめとしては「稽古は大事」ということと、さらに「やめられない(続けること)」ということですね。一同笑
今日の講演は、奥川先生からの大事な教えとして守って、これからも仲良くお稽古して、この大事な日本文化をみんなで繋げていきたいと思っております。
奥川先生、私も風姿花伝をこんなにわかりやすく聞いたのは初めてでした。また第二弾も願って企画いたしましょう。本当に素晴らしい、貴重な講演をありがとうございました。
【奥川恒治先生 プロフィール】
奥川 恒治(okukawa kouji) 先生 プロフィール
三世観世喜之に師事
(公社)観世九皐会会員
(社)日本能楽会会員
(公社)能楽協会
能楽観世流準職分
重要無形文化財(総合指定)
蓮田市教育専門推進委員
華友会主催
2006年奥川恒治の会発足
主な活動実績
7歳にて初舞台、25歳にて独立
「石橋」・「猩々・乱」・「道成寺」・「翁」・「安宅」・「望月」・「砧」披演
イギリス・スコットランド・韓国・オランダ・ベルギー・シンガポール・バリ・イラン等
海外公演に参加
ホームページ https://nohnohana.com